「月見座頭」 座頭 野村万作 上京の男 野村萬斎
入場の列に並んだころにはすっかり日も暮れ、見所には虫の
声も・・。橋掛かりに杖の音が響き始めた時には、もうすっかり
「月見座頭」の世界に入り込んでいた。万作師の座頭は定評
のあるところだが、厳島のような風雅な舞台ではことさら侘びた
味わいが生きてくる。杖の音の一つ、台詞のひとつに座頭の
哀愁が感じられて、観る者の心に深く染み入ってくる。
それゆえ後半の理不尽な仕打ちが狂言とは思えない重みを持
ってくるのだが、そのことよりも我々の心に重く響いたのは終曲
間際の「くっさめ」だったのではなかろうか。一瞬場が和んだ後
の孤独な座頭の姿は今も脳裏から離れないでいる。
「月見座頭」はある意味普遍的な人間の本質を描いていると
言える曲で、現在に生きる我々が観ても考えさせられることの
多い作品だ。たとえば、ネットの世界にも通じるところがあろう。
普段の人間関係ではちゃんとした人でも、匿名の掲示板などで
攻撃的になったり悪意を露呈することなどは珍しくない話だ。
私達は自身の中にあるそうしたニ面性を理解し、自ら戒めていく
のでなければ、この男の理不尽を非難することなど出来ないの
ではなかろうか。 |
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